「東京・下町自転車」 (第二章:銀座「ZARA」)

銀座六丁目交差点付近

第二章:銀座「ZARA」

 銀座6丁目まで来たところで、右手に大きなクレーンが目に入った。ここは松坂屋の跡地で、これからの銀座を担う新しい複合商業施設を建築中だった。2020年東京オリンピック開催にむけて、東京の都市再開発も大いに弾みがついた。この通りだけで銀座5丁目サッポロ銀座ビル再開発や、その先の京橋から日本橋にかけて大規模開発計画が目白押しである。最近、J−REIT(日本不動産投資信託)の時価総額が10兆円を超えたというニュースを耳にしたが、集めた資金は、こういった大規模ビル開発に回されているのだろう。

 由美子は、付近を歩いている女の子達の抱えている手提げ袋に、ZARAH&Mのロゴが多いことに気がついていた。目の前のビルを見上げると、そこは「ZARA」の正面だった。ファストファッション業界では、「ZARA」の売り上げが世界第一位。買うつもりは無かったが、どんな品揃えがあるか勉強のために覗いてみることにした。

 これまでは、市場調査によって世間のトレンドを予測し、デザインや品揃えを決めてきた。しかしながら今は、メーカー側がトップダウン的に商品を提供し、そこへ大衆を誘導していくようになった。新商品のライフサイクルが1ケ月も持たないと言われる業界にあって、これは消費者の価値観の多様化と移り気を逆手にとり、少量多品種の商品を一気に売り裁いていく基本的な戦術のようだ。

 ZARAの店内は20代思われる若い子達で混雑していた。20代を若い子達と思ったことに対し、由美子は複雑な思いを感じていた。中国人と思われる外国人も多い気がした。とにかく中国人の購買力は凄まじい。日本全土が買われてしまいそうな勢いだ。特に人気なのは「マツキヨ」の化粧品。肌に優しい、高品質の化粧品は中国には無いらしい。

 由美子は、中央にある階段から階上に足を進めた。ユニクロと比べて価格は高め、しかしながら多種多様なデザインの商品が揃っていて、見ていて飽きることはなかった。気に入ったパンツやジャケットは、今買わないと次に来たときは無くなってしまうかもしれないという脅迫観念を由美子は感じていた。これが常に最新ファッションを提供し続けるZARAの狙いであった。低価格・高品質のベーシックファッションを取り扱うUNIQLOとの棲み分けが見えたような気がした。

 今日は、夕方からだいぶ歩いた。しかし、由美子にとってはいつものことだった。「近くに美味しいお店は無かったっけ!」。元気の元は、やはり食べることにあった。





(このシリーズは、iPadで楽しめるように設計されています。喫茶店でお茶を飲みながら、ゆるりとした気分でお楽しみください。)
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