「東京・下町自転車」 | (第四章:銀座「しゃぶせん」) | |
銀座の街はすっかり闇に包まれ、街路樹のLEDが眩(まぶ)しいぐらいに輝いていた。夕方から歩き続けたせいで、だいぶお腹が空いてきた。 五丁目の銀座コアビルまで行けば、しゃぶしゃぶのお店「しゃぶせん」がある。地下2階のお店は席がすべてカウンターになっていて、女性一人には都合が良かった。 店に向かう途中、6丁目交差点の角にアバクロのお店が見えた。カジュアルファッションブランドには似合わず黒を基調としたお店には、高級ブランド店のような入り難さがあり、客の出入りも少ないようだ。 差別的な発言や経営方針が問題視されるにつれ、A&F(Abercrombie & Fitch)のロゴを支持していた若者も、急激に遠ざかっていると聞いている。 さらに進むとユニクロがあって、ここはさすがに若者の出入りが多い。由美子は、無意識に客層の分析を行ってしまっていることに気がついて、左右を見回した。これは殆んど職業病、少し前までアパレル業界の商品企画を担当する部署にいて、競合店の動向を密かに偵察したものだ。 銀座コアビルはその先にあった。ビルの地下2階にある「しゃぶせん」は、行列で中々入れない人気店だが、今日は運良くすんなり入れた。注文したのは牛ロース+豚ロースのしゃぶしゃぶ定食2,880円(税込)、これがランチタイムなら1,286円(税込)という更にお勧めの価格であった。由美子はこのお店のトマトサラダが大好きだった。ざく切りしたトマトに玉葱の微塵切りと醤油ベースのドレッシングの組み合わせはとても爽やかだ。砂糖をたっぷり掛けて食べる「あずきがゆ」も、デザート感覚でとても美味しい。店内全面禁煙というところも気に入っていて、素材の旨みやかすかな甘みが十分堪能できた。 同じビルには人気の紅茶専門店「ザ・ダージリン」があり、ここで食事の余韻を楽しむことにした。ダージリンと名乗るだれあって、インド北部で産するダージリン・ティーには相当な拘(こだわ)りをもっているようだ。茶園ごとの味を賞味できるようだが、茶園の違いだけでそんなに風味が変わるものかどうかはいつも疑問に思っていた。 コアビルを出ると、銀座四丁目の交差点はすぐだった。三越の入口では、ライオン像が睨みを利かせている。その手前の角がサッポロビルで、2016年の地上12階建ビル竣工に向けて再開発中である。その斜向かいが時計塔のある銀座和光本店で、もう一つの角には丸い形をした三愛ビルがある。 銀座の土地価格の目安として発表される鳩居堂(きゅうきょどう)もその隣にあり、2014年度の路線価は1坪あたり7,788万円と日本最高額。この交差点から有楽町方面には、エルメス(仏)、グッチ(伊)、コーチ(米)、ディオール(仏)、アルマーニ(伊)といった世界の高級ファッションブランドショップが軒を並べていて、まさにこここそ「東京銀座」を代表する場所だった。 |
(このシリーズは、iPadで楽しめるように設計されています。喫茶店でお茶を飲みながら、ゆるりとした気分でお楽しみください。) 東京下町を探訪する他の記事(「東京・下町自転車」)や「沖縄花だより」、「紀行・探訪記」、「真樹のなかゆくい」へも、是非訪づれてください。 |