プロローグ2:「東京銀座」
同じ頃、由美子は汐留から銀座に向かって歩いていた。先ほどまでオレンジ色に染まっていた町並みも夕暮れとともに色を失っていく様子を感じながら、彼女はコートの襟(えり)をそっと立てた。
博品堂の前までやって来て、由美子は立ち止まった。その横はバーバーリー銀座店。バーバリーと言えば三陽商会がライセンス契約を結び国内販売を担当してきたものの、その契約も来年で解消することが決まっている。1970年から40年以上に渡って培(つちか)ってきた関係は何であったのだろうかと思えるような発表だった。あまりにも一方的な契約解除に、義理や人情といった人間関係はイギリス人には通用しないらしい。
アパレル業界でのもう一つの動きはファストファッションの台頭(たいとう)。いま銀座の大通りにはZAEA、H&M、GAP、そしてUNIQLOと云った世界のファストファッションメーカーがずらりと勢揃いした。 これら世界のファストファッションメーカーの繁栄を支えているのは、バングラデシュを筆頭とした東南アジアの安価な労働力。日本でもユニクロがブラック企業の代表として有名になったことがある。 実は由美子も、この業界の人間であった。
季節はもうすぐクリスマス、銀座の中央通りは街路樹に飾られたおびただしいブルーのLEDがきらめきを増し始めていた。ここはまるで海の中、竜宮城に招(まね)かれた浦島太郎も、きっと同じような光景を見ただろうと由美子は思った。
青色LEDといえば日本の三人の物理学者がノーベル賞をとったばかり、この人たちの功績がなかったら、この並木道も赤や黄色のLEDで染まっていただろう。 由美子とっては赤でも青でもどちらでも良かったが、いまの気分には青色LEDの光の方がしっくりときた。
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