「安里栄町」飲み歩き探訪 (後編)

「新小屋」(あらこや)

 さらに場内を徘徊し、先程は人がいっぱいで座れなかった立ち飲み屋「アカツキ」に辿りつきました。ここは、テーブルチャージが100円で泡盛一杯200円(ちなみにウィスキーは一杯400円)、お酒しか置いていないカウンターだけの小さなバーです。

 マスターの当面の気がかりは消費税、8%になったときの価格設定で悩んでいるそうです。210円にすれば便乗値上げと言われ後ろ指を差されかねず、かといって価格据え置きはもう限界、最後の手段は泡盛を水で薄めるしかないと思います。(冗談です)

 「アカツキ」の隣には備瀬商店の大きな看板が掛けられています。看板の袂(たもと)にテーブルを出して飲んでいる客は、当然ながら備瀬商店の客かと思えば、実はその隣の中華料理屋の客で、そのお店の名前は「べんり屋」

 ならば「べんり屋」に行って餃子でも食べようかと言い出せば、出前してもらえば良いとのことでさっそく注文します。どのお店も持ち込み自由らしいのですが、最初は店に悪いような気がして戸惑いました。しかし、栄町市場全体がフードコートだと思えば抵抗感はなくなります。

 カウンターの端にはテレビがあって、名護市長選挙の開票が始まりました。この日の選挙は米軍辺野古移設の是非を問う興味深い選挙で、埼玉から来たというお兄さんも興味津々(きょうみしんしん)の模様、投票率も76.71%をはじき出す関心の高さです。

 最終結果は、辺野古移設反対派:稲嶺進1万9839票(55.8%)、推進派:末松文信1万5684票(44.2%)。今回を含めた過去5回の選挙では、推進派3勝、反対派2勝の成績ということで、家族でも意見が別れ、特に飲んだ席ではタブーとされている話題です。

 

立ち飲み屋「アカツキ」

名護市長選挙(稲嶺陣営)
 

 次に向かったのは「大ちゃん」、焼き鳥のお店です。ここでは、炭火で焼いた熱々の手羽先を頂きます。隣の店はシャッターが下りていて、その前には、なにやら訳の分からない沖縄の歌の書かれた木の板がたくさん置いてありました。

◆ 人間(にんじん)ぬ浮世(うちゆ)や七恥んかちる 浮世(うちゆ)渡る
  <訳> 人間の浮世では七恥をかく、(皆そうやって)浮世を渡る。

◆ 恨む比謝橋(ひじゃばし)や 情ねん人ぬ わん渡さとうむてい かきてぃうちやら
  <訳> 恨めしい比謝橋は、情のない人が私を渡そうと思って掛けておいたのだろうか。

◆ 及(うゆ)ばらぬとうみば思(うむ)い増す鏡 影やちょんうつち 拝(うが)みぶしやぬ
  <訳> 及ばないと思えば想い増す(真澄)鏡、面影だけでもちょっと映し、拝みをしたい。

 真ん中の歌の比謝橋とは嘉手納の比謝川に架かる橋で、「吉屋チルー」(遊女よしや)が詠んだ歌です。最後の歌もチルーの作に間違いありません。いずれ劣らぬ心に糸引く琉歌です。

 翻訳しだしたら、その面白さに嵌(は)まってしまいました。沖縄琉球史の父でもある故外間守善(ほかましゅぜん)先生のような、沖縄言語学者にでもなった気分です。

 栄町市場に何回足を運んでも、込み合っていて入ることの出来なかったお店が食堂カフェ「とも」です。カフェとは、とても遠いイメージのお店ではありますが、何故か中に入るとほっとします。缶ビールを頼んでも、冷たく冷やしたジョッキを持ってくるところが嬉しいです。

 100円のお通しは、おしゃれな皿に盛られた3種盛で、枝豆・豆腐・レタスと人参の浅漬け。食べ物は一律320円の激安で、注文したのは餃子、ナスと豚肉の炒め物、そしてピーマンの炒め物。いずれ劣らぬしっかりとした味わいでした。

 

食堂カフェ「とも」

 だいぶ興奮し過ぎて疲れてきたので、石垣島出身の親子が営む「ココジャスミン」に行こうと思います。店内は、静かなジャズの音楽で満たされていて、栄町市場には似合わない落ち着いた空間がそこにはありました。お通しのおつまみを摘みながらカクテルでも頂けば、ここが栄町市場場内であったことを忘れてしまいます。

 最後に紹介を忘れてならない居酒屋は「新小屋(あらこや)で、栄町通り沿いにあるお店です。店内はいつも満席で、タイミングが合わないと入ることが出来ません。

 このお店の「もつ焼き」とは牛肉の串焼きのことで、レアで焼いたハラミやひれ肉は、柔らかくて絶品です。ガリガリ君チュウハイが美味しいということなので、ついつい一緒に頼んでしまいました。

 隣に居合わせた夫婦は那覇の出身で、この界隈にはちょくちょく飲みにきているとのこと。お勧めは、焼き鳥屋「二万八千石」の路地を入った「Refuge」というお店で、そこにも是非顔を出してみて下さいと云うことでした。

 

居酒屋「新小屋」

前編 中編 後編(この場所) 【Information】
(このシリーズは、iPadで楽しめるように設計されています。喫茶店でお茶を飲みながら、ゆるりとした気分でお楽しみください。)
ついでに、「紀行・探訪記」「沖縄花だより」「真樹のなかゆくい」へも、是非訪づれてください。
(文、写真:梶原正範)