「安里栄町」飲み歩き探訪 (中編)

 日を改めて、またもやって来ました安里栄町、衝撃の前編からひとつ年を越しました。今日は2014年の1月19日、休日出勤で稼いだお金を懐に抱きしめ、いざ出陣します。真っ先に向かうのは栄町のスナック街、40年前の可愛いお嬢さん達にたくさん会えるという噂です。このようなお店には地元の常連客しか通わないだろうと思いますが、一見(いちげん)さんでも大歓迎という確かな筋からの情報も入手済み。しかしながら、いざ噂の安里栄町社交街の入り口に佇(たたず)めば、通りにほとんど人影はなく、緊張の糸は張り詰めるばかりです。

 気になるお店はスナック「美人館」、単に店名からの連想です。建物は、イタリア フィレンツェの「ピサの斜塔」を思わせるやや傾き加減の古い一軒屋で、ネオンの看板は黒地に白抜き、入り口には小さな赤いランプが灯されていて遥か地底にまで続く炭鉱のトンネルの入り口のようです。さっきまでの揚々としていた意気も、このお店の怪しげなオーラには、とてもとても太刀打ちできません。・・・という訳で、一旦、栄町市場場内の飲み屋にて体制を立て直すことに決めました。


喫茶・居酒屋「昭和喫茶」

「モラ・カフェ」のバドワイザー
 

 市場には南口から入場します。場内をウロウロして、入ろうと決めたお店は喫茶・居酒屋「昭和喫茶」。内部は、確かに昭和の香り溢れるレトロな空間です。「とりあえずビール」と、おまかせおつまみ5点セット500円を注文します。出されたおつまみを摘んでびっくり! 刺身・揚げ物・煮物、どれをとってもあまりの美味(びみ)にびっくり仰天!! 沖縄に美食は求めない主義を貫いてきましたが、ここにきてこの主義は簡単に崩されてしまいました。

 お店の中を見廻せば、たくさんの花の写真が飾られています。「ご主人の趣味ですか?」と聞けば、友達が持ってくるのだそうです。となれば遠慮する必要はさらさらなく、「どれも、そこらに生えてる花ばかりですね。」とバッサリ評すれば、店の主人も同意見の模様。場が和(なご)んできたところで栄町社交街のスナックはどんなところかと聞けば、「やめときなさい。」と逆ににバッサリやられました。

 昭和喫茶のお隣は「モラ・カフェ」というおしゃれな名前のお店、。しかるにその実態は、通路に長いすがはみ出した、いわゆるよくある一杯飲み屋。それでいて、メニューに書かれたビールはバドワイザーやハイネケン。度重なる予想外にボーゼンとしていると、店の奥から市場の中では若い部類に入るお姉さんの「決りました〜?」の声がして、反射的にバドワイザーを注文しました。

 出されたビールの小瓶をよく見れば「原産国:イギリス」の表示が、しかも製造から8ケ月以上たっています。もともとバドワイザーはアメリカのビール、日本では麒麟麦酒でも製造しているので、「わざわざ関税を払って遠いイギリスから輸入しなくとも・・」と思うのは素人考え? 沖縄には我々の知らない秘密輸入ルートがあるのかも知れません。(補足: 品質に厳しい日本のビールの賞味期限は9ケ月程度を目安にしているようですが、このビールは1年です。)

 ふと気が付けば、足元でごそごそ動いているのは目のくりっとした柴犬です。犬の名前は「さくら」、愛情をたっぷり受けて育てられたと思えるお行儀の良さで、小型犬が近寄ってきてもまったく吠えません。

 これに反して手綱(たずな)を持っているおっちゃんはただの酔っ払い、どうも釣り合いがとれません。辺りの人によくよく訊ねてみれば、飼い主は別にいるそうで、なぜかこのおっちゃんがいつも連れ廻しているのだそうです。さくらには、ゴン太という彼氏がいるようですが、この日会うことはできませんでした。

 

さくら(柴犬メス)

前編 中編(この場所) 後編へつづく 【Information】
(このシリーズは、iPadで楽しめるように設計されています。喫茶店でお茶を飲みながら、ゆるりとした気分でお楽しみください。)
ついでに、「紀行・探訪記」「沖縄花だより」「真樹のなかゆくい」へも、是非訪づれてください。
(文、写真:梶原正範)