【12月】 沖縄花だより (前編)

 

 一年は早いものでもう師走(しわす)、沖縄の野原は一面のススキで覆われています。上の写真の風景は、内地では秋ですが沖縄では立派な冬の景色です。先日はやんばるの山々に、小さな秋(冬?)を探しに行ってきました。

 11月23日土曜日。暦の上ではとっくに冬でありながら、やんばるの地「名護」では朝10時の時点で気温が20度を超えています。ところで那覇に住む人々は名護を「やんばる」だと思っていますが、名護に住む人は「いいや、やんばるは大宜味以北だ!」と言い張ります。折りもおり、自民党衆参両院議員5人が公約を翻(ひるがえ)して容認した米軍普天間基地の移設候補先「辺野古」も名護市ですが、どうみても「やんばる」の地にしか見えません。


ヤンバルクイナ(生態展示学習施設)



国道58号線の起点



「アマミキヨ」の足跡
 

 辺野古の北にあるのが東村、さらにその先には安田(あだ)という集落があって、そこが今日の第一目的地です。先々月の9月14日、ヤンバルクイナを自然に近い状態で観察できる「ヤンバルクイナ生態展示学習施設」がオープンしたということで、さっそく行って来ました。

 はたして施設で飼育されていたヤンバルクイナは2歳のメス、卵から人口孵化した個体で、その中でも人懐こい性格のヤンバルクイナが1羽公開されていました。そこで見た感想を一言で表現すれば「かわいい!」です。

 やや太太(ふてぶて)しいニワトリや首里龍潭池のバリケンなどとは次元の異なる「かわいさ」です。思っていたより小柄で、あんなかわいい姿を見せつけられてしまったら、マングースに恨みはなくともヤンバルクイナの肩を持ってしまいます。

 次に向かったのは「奥」。沖縄北端のやんばるの中でも最も奥深いところにある集落ですが、いくらなんでも「奥」とは安易は命名だろうと思います。

 「奥」に着いたら最初に向かうのは奥川に掛かる奥橋で、ここが国道58号線、通称「ゴッパチ」の起点です。正確には沖縄側の起点と云うべきで、58号線は鹿児島から沖縄まで続いているのだそうです。

 この鹿児島から続く国道58号線は、奇遇にも沖縄開闢(かいびゃく)の神「アマミキヨ」が、はるばる奄美大島を経由して辿(たど)ってきた道と一致します。

 「アマミキヨ」(阿摩美久)には、東の彼方(かなた)にあるとされるニライカナイから久高島に降り立ち、本島南部の百名海岸から沖縄本島に上陸してきたのだという伝説もあります。しかし、沖縄琉球史の父であり言語学者でもある外間守善(ほかましゅぜん)先生に言わせれば、沖縄北端の宇佐浜(うざはま)への上陸が最初で、それから南下して行ったのだと云うことです。

 こうまで云われたからには、宇佐浜まで行って真実を探る以外にありません。宇佐浜に向かう途中には宇佐浜遺跡の石碑がありました。年代としては本土の繩文時代末あるいは弥生時代はじめにあたる時期のものされ、「アマミキヨ」伝来の考古学的な裏づけとしては十分です。

 宇佐浜の背後には、巨大な岩山がそびえています。これこそ熱帯性カルデラという地形であって隆起した石灰石が長い間の雨風にさらされて出来た地形です。内地でカルデラといえば山口県の秋吉台、ドリーネとかウバーレとかいう科学用語は高校の地学の授業で習った記憶がありました。しかしながら秋吉台のカルデラは温帯性で凹型、沖縄のカルデラは熱帯性で凸型です。


黄金山御嶽



安須森御嶽
 

 巨大な岩山の頂上に祭られているのは安須森御嶽(あすむいうたき)。琉球創世神話によると、ここは女神アマミキヨが最初に天から降り立った地とされ、斎場御嶽(せーふぁーうたき)を上回る最高聖地です。そればかりかUFO目撃情報が多数寄せられる場所でもあると云うことで、すぐにも登ってみるしかありません。

 安須森御嶽の入り口には看板も何もありません。知る人だけがお参りする所です。行って見れは先着がいて、ワゴン車が2台止まっていました。山道を登っていくと、入り口近くの黄金山御嶽では地元の人が神聖なお祈りを捧げていました。

 横には「うがんじゅ ぬ ちゅらさ や うちなーんちゅ ぬ ちむじゅらさ」と書かれています。「ちゅら」は美ら海水族館のお陰で誰もが理解できる言葉になりました。最後の「ちむ」は「ちむどんどん」の「ちむ」で、心のことだと思います。

 知る限りの知識を総動員して翻訳すれば、「拝所の綺麗さは、沖縄人の心の美しさ。」と云った、なんとも素敵な言葉に行き着きました。

 さらに登って安須森御嶽を目指します。それからの路はロープを使いながらの山道で、まさかここまでやって来てロッククライミングをすることになるとは思ってもいませんでした。

 崖の頂上付近に近づけば辺りの景色は急に広がり、ようやく目的地に到着です。下界を覗(のぞ)けば、あまりの高さに足が強張(こわば)ってガクガクします。琉球王国の正史「中山世鑑」によれば、沖縄祖神アマミキヨが天帝の命を受けて最初に神降りした場所とされるだけあって、ここはまさに神々が下界を見渡す絶好の場所でありました。UFOが興味を抱いて見に来る気持ちも、よく分ります。[安須森御嶽からの眺望]




前編(今いる所) 後編に続く

(このシリーズは、iPadで楽しめるように設計されています。喫茶店でお茶を飲みながら、ゆるりとした気分でお楽しみください。)
ついでに、他の「沖縄花だより」「紀行・探訪記」「真樹のなかゆくい」へも、是非訪づれてください。