東京下町 樹木探索 ハマユウ(浜木綿)とハマナス(浜梨)[印刷用]

「ハマユウ」(浜木綿)

 デジカメの写真を整理していて、偶然目に付いたのが「ハマユウ」(浜木綿) の白い花。「あれ!どこで撮ったんだっけ?」と記憶を辿(たど)ってみれば、隅田川に架かる桜橋の東岸でした。桜橋といえばXの形をした歩行者専用橋で、夏には隅田川花火の打ち上げ会場になるところです。

 花火は例年7月の最終土曜日に行われ、今年は7月30日。翌日は東京都知事選挙と重なったため、予備日なしの一発勝負となりました。打ち上げる花火の数は約二万発で、総額1.5億円の費用が掛かるとされています。

 話を戻し「ハマユウ」は、比較的温暖な地域に育つ植物です。横須賀市にある天神島(てんじんじま)が分布の北限地であると云われていて、神奈川県では、この地に自生するハマユウを天然記念物に指定しているほどです。


ハマオモト線(1938)



東京の平均気温と最低気温



「ハマナス」(浜梨)

 ハマユウの別名は「ハマオモト」(浜万年青)。そしてハマオモト線とは、ハマユウの北限をなぞった線で、年平均気温15℃および年最低気温-3.5℃の等温線とほぼ一致すると云われています。これを発表したのは植物学者の小清水 卓二(こしみず たくじ)で、1938年のことでした。

 あれから78年、気象庁がネット上に公開している東京のアメダス観測データをエクセルでグラフにしてみれば、およそ1955年を境に年間の平均気温は15℃を超え、最近では最低気温が零下にならない年も出て来ています。これならば、東京にハマユウが群生していても全く不思議ではありません。

 北限とは逆に、北関東が南限となっている植物が「ハマナス」です。今のところ、太平洋側は茨城県南東部の鹿嶋市、日本海側では鳥取県が自生の南限とされていて、いずれの箇所の群落も1922年に国が天然記念物として指定しています。ハマナスもハマユウも、海岸の砂地を好むいわゆる海浜植物ですが、気候条件の違いから同じ海岸に群生することはなさそうです。

 ハマナスは、「北国の薔薇」と呼ばれ冷涼な気候が好き。浜辺に実る梨ということで浜梨(はまなし)と云われていましたが、東北弁で語尾を訛(なま)って「ハマナシぃ」と発音していたことからハマナスになってしまったらしいです。

 東京下町の自宅近くでハマナスが咲いているのは、堅川河川敷公園内の自転車道。ハマナスの赤い実は、ローズヒップ (rose hip) と呼ばれお茶にしたりジャムにするらしいのですが、人目を盗んでこっそり摘(つま)んでみても、お世辞にも美味しいとは思えません。

 ちなみにヒップ(hip)の語源は、およそ1,000年前に使われたバラの実を意味する古英語(こえいご)ヒープ(hēope)であって、お尻とは全く関係なさそうです。






(このシリーズは、iPadで楽しめるように設計されています。喫茶店でお茶を飲みながら、ゆるりとした気分でお楽しみください。)
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